イー・モバイル千本倖生会長の経営力(上)
幾多の危機を乗り越える世界水準のマネジメント力
[2008-03-07 18:36:50]
http://kigyoka.com/kigyoka/public/news/news.jsp?id=841
創業当初から世界水準のグローバル経営を実践するイー・モバイルの千本倖生。高い志とビジョンを胸に徹底したビジネスモデルを構築し、米ゴールドマン・サックスやカーライルなど世界一級の投資会社から多額の資金を調達。社員一丸となって目標を達成する組織力に加え、国際色溢れる錚々たるメンバーを社外取締役に迎え、強力なコーポレート・ガバナンス体制を築いてきた。これらの経営力が数々の危機を突破し、最高速の成長を実現する最大の原動力となっている。 (文中敬称略)
●強さの秘密1 差別化戦略
高速データ通信サービスで
急速に加入者数を伸ばす
食い入るようにチラシを見つめる客、黒いジャンパーを羽織り、ひっきりなしに訪れる客を案内して回るスタッフの女性??2008年2月1日、ヨドバシカメラの秋葉原店「マルチメディアAkiba」店のある一角は、まさにお祭りのような高揚感に包まれていた。賑わいのもとは、1階のイー・モバイルのブース。入口すぐの「一等地」にあるこのブースは10メートルほどの長さを占拠、申し込みスペースには絶えず人が訪れ、スタッフが懸命に説明している。
彼らが主に説明して回っているのは「緊急入荷!業界初モバイルブロードバンド、7.2Mbps対応モデル」と書かれた看板の下にある、「データカード」の端末である。これはノートパソコンに繋げば、圏内ならどこでもインターネットが使えるというもの。人気は強く、「00年12月に7.2Mbps対応の端末を発売した時は、予約を含めて1日140件もの申込みがあった」(ヨドバシカメラ秋葉原店)。
イー・モバイルの高速モバイルデータ通信は強い。07年6月1日の有料サービス開始後、約半年で20万契約を突破。「この数字は世界でも歴史的なこと」と千本は強調する。一体なぜ、イー・モバイルのサービスは熱い支持を受けているのか。その最大の秘密は、モバイルデータ通信で高速、定額、低コストを実現したことにある。
高速、定額、低コストを実現
「我々のモバイルブロードバンドは、速くて安い。同業他社と比較すれば、2倍の高速スピードで使えて、なおかつ価格は半額だ。実質4倍の競争力がある」とエリック・ガンは自信を見せる。07年12月には業界初の下り最大速度7.2Mbpsの高速通信規格「A」方式を投入し、インフラを強化。料金プランは2480円(ライトデータプランで新にねん)からあり、月額料金5980円の定額プランを揃えた。
製品ラインナップは主に二種類で、携帯端末「EM・ONE」と、パソコンに繋いで使う「データカード」がある。売れ行きは1対2でデータカードが多く、特に会社支給のセキュリティを装備したノートPCをモバイルで高速化するため、法人需要が伸びている。「7.2Mbpsと高速で、しかも無制限で使い放題の定額料金は世界でも珍しい。この分野では国内で圧倒的な競争力を持つ」と千本は満面の笑みを見せる。
実際に他社と比べれば一目瞭然だ。使い放題プランの月額利用料金で見ると、NTTドコモのデータサービスが3.6Mbpsで1万円程度。KDDIのauは3.1Mbpsで5985円。イー・モバイルは7.2Mbpsの5980円と、速くて安い。ソフトバンクモバイルにいたっては3.6Mbpsのデータサービスはあるものの定額プランはない。スマートフォン「W ZERO3」でデータ通信市場を切り開いてきたウィルコムも、512kbpsとスピードが決定的に遅く、1万2915円と価格も高い。モバイルデータ通信に関してはイー・モバイルの独壇場といえる。
「私たちを大手キャリア3社に次ぐ第4位の携帯電話会社と思っている方が多い。しかし私たちはモバイルブロードバンドの会社だ。狙っているターゲットがまったく違う」と千本はその違いを強調する。
評価は高い。「Web2.0」の著者で知られる小川浩(RSS事業を展開するモディファイ社長)は「これだけ速い環境でどこでもすぐ使えるというのは、非常にありがたい。商談の際にその場でウェブサイトを見せてプレゼンする時にも役立つ」と感想を語る。さらに07年「データプラン(ベーシック)」は「2007年日経優秀製品・サービス賞」で優秀賞、日経産業新聞賞を受賞した。
製品の力に加え、家電量販店のヨドバシカメラ、ビックカメラ、コジマとは資本提携を結ぶなど、販売チャネルも強化中だ。目標は2010年3月期に加入者数300万、2012年に500万人の達成だが、「当初予定していた数字を前倒しで達成できそう」とエリック・ガンは自信を見せる。
ただ、安心はしていられない。他社もモバイルデータ通信分野を強化しているからだ。ウィルコムとKDDI陣営のワイヤレスブロードバンド企画の2社は次世代高速無線2.5GHz帯の免許を獲得、09年夏以降には商用サービスを提供する方針だ。米アップルの携帯端末「iPhone」の日本参入も間近とされ、予断は許さない。
イー・モバイルの対応エリアが東京、名古屋、京阪神など主要都市部が中心で、地方では使えない地域がある点も気になる。NTTドコモとのローミング契約や自網のエリア拡大も進めているが、「どこでもブロードバンド」の実現はこれからである。だが後発ならではのメリットもある。
「我々は将来、5000局という最小の基地局数で全国・大都市で90%以上をカバーできるようになる。真っ白なキャンバスに次世代用のモバイルブロードバンドネットワークを一番最適なやり方で創っているからだ」。その将来を実現するチーム作りにも、千本は気を配っている。
●強さの秘密2 グローバル経営
最高の経営チームをつくる
「いかに経営チームをつくるか。それがマネジメントの根幹になる」。そう語る千本は持ち前の情熱で優秀なメンバーを集めてきた。
最良のパートナー、エリック・ガンもその一人。エリックはゴールドマン・サックス(GS)時代、NTTドコモの主幹事担当として、世界最大の2兆円というIPOを成功させたカリスマ的存在だった。その成功で多額のSのストックオプションを保有し、マネージング・ディレクターに登りつめていた。だがそれらのすべてを投げ打って、千本とイー・アクセスを創業する。
「千本は海外経験も長く、日本人だが考え方や経営スタイルはグローバル。タッグを組めば、絶対に成功すると確信していた」とエリックは言う。
千本の人間性や考え方に惹かれて入社を決めたメンバーは多い。イー・アクセスの創業メンバー小林英夫(現イー・モバイル専務執行役員情報システム本部長)は「千本の講演に惹かれて、ぜひ一緒に働きたいと思った」と語る。株主にも千本のファンが多く、株主総会で千本が今後のビジョンを語れば、時に拍手が沸き起こる。
中でも上手いのは、目標の立案と実行だ。イー・モバイルの加入者獲得ではチーム一丸となって、07年8月末に1カ月前倒しで10万契約を達成、同年末には20万契約の目標を見事達成した。
「頑張れば何とか達成できる数字だった。一致団結して目標を達成したことで、社内でも『やればできる』という自信が持てた」とイー・アクセス常務執行役員兼CFOの飯田さやかは言う。「千本は人をやる気にさせる目標設定力が上手い。ギリギリ達成できる目標を決める」(イー・アクセス社長、安井敏雄)
「千本の要求はいつも高い。でもそれが無理難題に思えようが、みんなが共感してガーッと動く組織力、機動力がある」(イー・モバイル常務執行役員、田中敦史)
売り上げを最大限に伸ばす一方で、経費を最小限に抑えるのも、千本流の経営スタイルだ。「ベンチャー企業は一日でもはやく黒字化を達成すること」が千本の持論。経営陣は月ベースで数字や進行状況を徹底的にチェックする。「トップは現場の細かいところまで理解しないといけない」と千本は言う。現場のチェックに加え、経営の管理機能も強化すべく、コーポレート・ガバナンスにも力を入れている。
国際色溢れる人材を揃える
コーポレート・ガバナンス
「社外取締役は、世界各国から通信業界や経営に精通した著名人を集め、客観的な立場から経営をチェックしていただいている。彼らを説得するのが、私やエリックの仕事だ」と千本は説明する。
イー・モバイルでは8名の取締役がいるが、社内取締役は千本とエリックの2名だけであり、その他は社外取締役の6名で形成される。社外取締役には、元大蔵省財務官の行天豊雄、元伊藤忠商事副社長の降旗健人、GSのマネージング・ディレクター、アンクル・サフら錚々たるメンバーを揃える。海をまたいでテレビ電話で参加する者もいる。「取締役会は、グローバル経営そのもの。英語や技術用語が飛び交い、経営陣や社外取締役の技術者が鋭い意見を発する。一瞬たりとも気が抜けない緊張感がある」と、以前、イーアクセスの社外取締役を務めていたドイツ証券会長の橋本徹は言う。
現在のイー・アクセスは8名の取締役のうち千本、安井敏雄、エリックの3名が社内取締役で、ブリティッシュ・テレコム最高幹部のポール・レイノルズや慶應義塾大学教授の國領二郎ら5名の社外取締役がいる。どちらの取締役会も社外取締役が過半数を占めており、経営内容の透明性を確保することが主な狙いである。
千本がコーポレート・ガバナンスにこだわる理由のひとつに、世界中から資金を調達することがある。「世界一級の投資ファンドは、グローバルに通用するガバナンス体制かどうかを必ず見る」と千本。優秀な経営チームと強力なコーポレート・ガバナンス。このマネジメント体制が世界から資金を調達する大きな武器になっている。
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