■笠原一輝のユビキタス情報局■
2008年のMenlowプラットフォーム
~PSPサイズのフルPCが可能に!?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0425/ubiq187.htm
これまでのIDFは、米国で行なわれるものが本イベント、それ以外の地域で行なわれるものに関してはその本イベントの内容を縮小したものという流れが定番だったが、先週北京で行なわれたIDFは、本イベントとしては初めて米国外で行なわれた。
会期も2日間と従来の3日間に比べて短縮されたこともあり、内容としては米国のそれに比べてやや内容が薄いものとなってしまったが、それでもいくつかの新しい話題はあった。中でももっとも注目を集めたのは、「McCaslin」ことIntel Ultra Mobile Platform 2007だろう。
本記事では、IDFでさらに明らかになってきた、IntelのLPIAプラットフォームの詳細などについてお伝えする。
●国内ベンダからも発売される2007年プラットフォーム
LPIAの2007年向けプラットフォームとなるIntel Ultra Mobile Platform 2007のテーマは、実装面積の削減にある。図1は、以前の記事でも利用した、IntelのLPIAプラットフォームにおける実装面積の削減具合だが、 IDFでの正式情報を含めて更新した。見てわかるように、2006年から2007年がもっとも削減具合が大きく、2007年から2008年に関してはわずかな削減にとどまっている。その後さらに大きな削減を期待できるのは、2009年以降に投入される予定のSoC以降ということになる。
【図1】Intel Ultra Mobile Platform 2007サイズの比較
【図2】Intel Ultra Mobile Platform 2007のブロック図
消費電力の観点では、残念ながら2007年プラットフォームは2006年に比べて大きく進化しているわけではない。以前の記事でも説明したように、2006年のプラットフォームの熱設計消費電力(TDP)が13W前後、平均消費電力が3.5W以下であるのに対して、2007年のプラットフォームのTDPは10W前後、平均消費電力は2W以下となっている。平均消費電力に関しては43%の削減になっているためバッテリ駆動時間の延びに関しては期待できるが、システムの小型化に貢献する熱設計消費電力に関してはデザインに影響があるほどの削減とは言い難い。
こうしたIntel Ultra Mobile Platform 2007の特徴を受け継ぎ、2007年に各OEMメーカーがリリースする予定の製品は、2006年のそれに比べて若干の小型化は図られているという製品になっている。
なお、気になる国内での製品展開だが、すでに富士通がIDFでIntel Ultra Mobile Platform 2007を採用した製品を参考展示を行なっており、これが国内で発売されると考えるのが自然な流れだろう(富士通からの正式発表はまだない、念のため)。情報筋によれば、日本のOEMベンダでもう1社このプラットフォームを採用した製品を検討しているベンダもあるとのことで、ぜひ期待したいところだ。
IDFの基調講演で公開された富士通のUMPC。Vista版OrigamiのUIが採用されていた。液晶が回転してタブレットのようにも利用できる 2007年プラットフォームの製品群
●PSPに近い大きさのフルPC端末を可能にする2008年のMenlowプラットフォーム
アナンド・チャンドラシーカ上席副社長兼ウルトラモビリティ事業部本部長
そしてIntelが2008年に計画している次世代プラットフォームが、Menlowプラットフォームだ。こちらも既報の通り、45nmプロセスルールで製造されるCPUの“Silverthorne”、チップセットの“Poulsbo”から構成されている。
2007年のMcCaslinが実装面積の削減に力を入れているプラットフォームであるとすれば、Menlowは、ずばり消費電力の削減をテーマにしたプラットフォームになる。IDFで、Intelのアナンド・チャンドラシーカ上席副社長兼ウルトラモビリティ事業部本部長は「Menlowプラットフォームでは、2006年プラットフォームに比較して熱設計消費電力と平均消費電力は4分の1に、待機時消費電力は5分の1になる」と明らかにしている。この数値は、2006年プラットフォーム比較ということになるので、計算してみると、Menlowのだいたいの消費電力が明らかになる。2006年の熱設計消費電力は13W前後、平均消費電力は3.5W前後であると述べたが、これをベースにするとMenlowの熱設計消費電力は3W前後、平均消費電力は 0.85W以下となる(グラフ1)。
【グラフ1】LPIAプラットフォームの消費電力の推移(筆者予想)
たとえば、平均消費電力で見れば、これがどれだけバッテリ駆動時間にインパクトを与えるかを計算で導き出すことができる。2006年に発売された UMPCの多くは、2セルのリチウムイオンバッテリを搭載しており、18Wh程度の電力容量となっていた。PCではシリコン以外に液晶、HDD、メモリなども電力を消費しており、これらの平均消費電力がだいたい3Wであると見積もって計算してみると、グラフ2のようなバッテリ駆動時間となる。06年ベースの製品が2.5時間程度しか駆動できないのに対して、Menlowでは4時間以上の駆動が可能になる。さらに、実際には液晶やHDDなども進化するので、そちらの下落分が1Wあると計算するとバッテリ(2セル)による駆動時間は6時間を超えることになる。
【グラフ2】LPIAプラットフォームのバッテリー駆動時間(2セル時、筆者予想)
チャンドラシーカ氏がIDFで公開した台湾のODMメーカーCOMPALが試作したMenlowベースのPCは、横と縦のサイズがほぼソニーのポータブルゲーム機PSPと同じサイズに収まっていた(厚みはやや大きかった)。
チャンドラシーカ氏によれば、このMenlowベースのPCは、ストレージにもSSDを採用するなどして小型化が図られており、WiMAXや無線 LANなどの複数の無線をサポートするという。まさに、EM-ONEやW-ZERO3といったARMベースのPDAの領域に、x86が入っていく口火となるのがMenlowなのだ。
COMPALが試作したMenlowプラットフォームのUMPC。横と縦はPSPとほぼ同サイズ 2007年プラットフォーム(下)と2008年プラットフォーム(上)。2008年の方が明らかに小型化することが可能になる
●性能をおおむね維持しつつ省電力を実現するとチャンドラシーカ氏
では、Menlowプラットフォームは、なぜそんなに低消費電力が実現できるのだろうか。ここが1つのテーマだ。簡単に思いつくことは、古いアーキテクチャを利用して、クロックを下げることなどで、低消費電力を実現するということだ。こうしたアプローチは非常に簡単に実現可能で、実際Intelが Intel Ultra Mobile Platform 2007のCPUとして採用しているX100/X110は、90nmプロセスルールのDothanコアを採用しているなど、そうしたアプローチをとっている。
こうしたアプローチのメリットは短期間で実現できることだが、デメリットとして性能低下ということが発生する。実際、X100/X110の動作クロックは800/600MHzとなっているので、1GHzを超えるクロックを実現していた超低電圧版Pentium Mなどに比べると明らかに性能は低下している。ただし、Windows Vistaと組み合わせて利用するには、十分とは言えないものの、使い物にならないというレベルではないのもまた事実だ。だからこそ、Intelはこうしたアプローチを2007年プラットフォームではとったのだろう。
ただし、今後に関しては、現在の性能、つまり2007年プラットフォームの性能を基本的に維持していくという。「我々は現在の性能レベルを今後もおおむね維持していく」(チャンドラシーカ氏)との通り、基本的には現在の性能を維持しつつ、消費電力の低減を図っていく。これが、IntelのLPIA に対する基本姿勢だ。
Menlowプラットフォーム用のSilverthorneでも、性能を維持しつつ消費電力を10分の1にするという。ではそれはどうやって実現するのだろうか? 「Silverthorneは完全に0から作り上げた新しいアーキテクチャの製品だ。詳細は今回のIDFでは申し上げられないが、45nmプロセスルールの採用も大きく貢献している」(チャンドラシーカ氏)と、完全に新しいアーキテクチャを採用し、かつHigh-kのような新しい素材を利用した45nmプロセスルールで製造することが低消費電力につながったと説明している。
公開されたSilverthorneのダイは、非常に横長の長方形で、実測値で4×9mmとダイサイズは36平方mm程度であると推定されている。これは、PC用のプロセッサとしては異例の小ささだ。もちろん、トランジスタ数も、同じ45nmプロセスルールで製造され107平方mmというダイサイズになっているPenrynなどよりも圧倒的に少ないことが予想される。トランジスタ数が多ければ多いほど電力は増えるので、この小さなダイサイズは Silverthorneの省電力の1つの理由だろう。
しかし、トランジスタ数=性能が常識のCPUでは、トランジスタ数が減ることは性能の低下に相当する。それでは、Silverthorneの性能は、2007年用のX100/X110に比べて低くなっているのかと言えば、そうではない。Intelに近い情報筋によれば、Silverthorneではクロック周波数が2GHzなど、これまでの超低電圧版CPUでは考えれなかった程度に上げられるというアプローチがとられるという。そして、クロック周波数や電圧などを動的に変更するSpeedStepテクノロジ、待機時消費電力を劇的に削減できるC6ステートなどの追加により、トータルで省電力を実現するという。確かに、UMPCのような使い方では、ピーク性能が必要になるのは本当にわずかな時間であるので、こうしたアプローチがとられている、そう考えることができるのではないだろうか。
なお、公開されたSilverthorneのダイ写真を見ると、横長の長方形の上下に外部接続のためのシステムバスと思わしきブロックが用意されている。Silverthorneのように、超小型ダイの場合、CPUダイとCPUプレートとの接続部分を十分に確保することが問題になるが、こうした横長の長方形というデザインをとることで、そうした問題をへの解決をはかっているのだと推定できる。
2008年CPUのSilverthorneとチップセットのPoulsbo チャンドラシーカ氏の基調講演で公開されたSilverthorneのダイ写真
●GPUの消費電力が今後は大きな課題となるLPIAプラットフォーム
消費電力という点では、もう1つのMenlowの構成要素であるチップセットのPoulsboに関しても、忘れることができない要素だ。というのも、Menlowプラットフォームの熱設計消費電力が筆者の推定通り3W前後だとすれば、チップセットであるPoulsboの熱設計消費電力は2.5W程度でなければならないからだ。
では、このPoulsboの正体はなんだろうか? チャンドラシーカ氏が公開したPoulsboのチップは、ダイそのもののサイズは、McCaslin用のIntel 945GU(10×11mm)とほぼ同じサイズになっていた。仮にSanta Rosa用のGM965(Creatline)やMontevina用のCantiga-GMだとすると、ダイサイズが小さすぎる。GM965はデスクトップPC用のG965がベースになっているが、G965のダイサイズは13×12mmとやや大きく、GM965ベースでないことは明らかだろう。もちろん、チップセットも専用に設計したということも可能性としては否定できないが、すでにMenlowプラットフォームがシステムとして実際に動作していたことなどを考えると、945Gベースのままで、クロックや電圧のスケーリング機能などの追加でさらに省電力をはかったものというのが妥当な線ではないだろうか。
ただ、CPUが0.5Wまで下がるのに、チップセットが2.5Wも食っているというのはシステムとしてはアンバランスであると言わざるを得ない。こうなっている原因は、内蔵GPUの消費電力があまり高いからだ。特に、Windows Vistaを意識せざるを得ないフルPCの場合、DirectX9に対応したGPUは必須と言える。演算器も、2Dのみを意識したものに比べて複雑にならざるを得ず、それがCPUに比べて消費電力が増える要因になっていると考えることができる。
今後より低消費電力を実現するのであれば、この点は超えなければならないハードルと言え、LPIAプラットフォームの大きな課題となるだろう。
●2009年にリリースされるSoCは、MCMでの実装になる可能性
Intelはこうした武器を持って、スマートフォン市場への参入も狙っている。「我々は携帯電話の市場、なかでもスマートフォンの市場を見据えている」(チャンドラシーカ氏)との言葉の通り、やはりiPhoneに代表されるような今後登場するよりリッチな機能を持った携帯電話、つまりスマートフォン市場にIAを浸透させることを狙っている。
その武器となるのが2009年以降にリリースする予定のSoCだ。このSoCに関してチャンドラシーカ氏は「SoCは確かに実装面積や消費電力の点で有利だが、柔軟性の点では課題がある。そこで、我々は2チップソリューションを開発し、顧客の要求に応じて1チップを出すというのが今の計画だ」と述べている。この発言の意味することは、おそらくこのSoCに関しては、CPUとチップセットがそれぞれ別々のチップとして開発され、必要に応じてMCMとして1チップにされる、そうした方針で開発されているということだと思われる。
●日本ではキャリアへの売り込みが重要に、IDFではその成果の一端も
ハードウェア的には2008年にPSPサイズのフルPCが可能になるとは、依然として、こうした製品でどういうビジネスモデルを展開していくのか、そこのところは不透明だ。たとえば、PCの製品としてこうした製品を展開した場合、価格は軽く1,000ドルを超えることになり、やはりユーザーがおいそれと手を出せるものではなくなってしまう。チャンドラシーカ氏は「ビジネスモデルは地域などによっても異なるだろう。ネットワークキャリアが販売するモデルをとるところもあるだろうし、PCのビジネスモデルで販売されるところもあるだろう」と述べる、PCのビジネスモデルだけでなく、地域によってはキャリアがインセンティブをつけて販売するビジネスモデルをとるところもあるだろうと述べた。
我が国の場合、すでにノートPCをのぞいた携帯端末は、ネットワークキャリアを通じて販売するビジネスモデルが定着している。EM-ONEやW- ZERO3などはその例だが、仮に2008年のMenlowプラットフォームがHSDPAに対応していた場合、これをOEMベンダが販売すると考えるよりは、キャリアが販売すると考えるのが自然な流れだろう。となると、どれだけキャリアがこうした製品に興味を示すのか、それが日本市場での成功の鍵となるだろう。そうした意味で、IDFでNTTドコモから“興味がある”というコメントをもらえたこと(関連記事参照)は、Intelにとってそこへの食い込みも順調に進んでいる、ということをアピールできたという意味で大きな成功と言えるのではないだろうか。
最後に筆者の個人的な感想だが、今回のIDFでIntelの幹部と話してわかったことは、IntelがこのLPIAに本気で取り組んでいるということだ。ウルトラモビリティ事業部のトップであるチャンドラシーカ氏は、IntelがCentrinoを立ち上げた時にはモバイルプラットフォーム事業本部の事業部長をつとめていたが、今回のIDFではその時の“元気さ”が戻ってきていると感じた。最初のCentrinoだった、Baniasがリリースされた2003年時、筆者だけでなく読者も何か新しいことができるのではないかとワクワクしていたと思うが、筆者は今のLPIAで再びそれを感じている。 Menlow世代で、どんな製品がでてくるのか、それが今から楽しみだ。
□関連記事
【4月18日】【IDF】「Intel Ultra Mobile Platform 2007」正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0418/idf05.htm
【4月16日】【笠原】Low Power IAプラットフォームの未来
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0416/ubiq184.htm
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(2007年4月25日)
[Reported by 笠原一輝]
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