「5年で結果出す」イ-・モバイル千本会長の舌好調
3月31日にサービスを開始したイー・モバイル。開業イベントの最後には会長である千本倖生氏が登場。「通信業界の生き証人」として、歯に衣着せぬしゃべりで、同社の将来展望から日本のケータイ産業の行く末までを熱く語った。(石川温のケータイ業界事情)
http://it.nikkei.co.jp/mobile/news/index.aspx?n=MMIT0f000005042007&cp=1
13年ぶりの新規参入となるイー・モバイルの携帯サービスは、前日までの事前予約だけで1万7000件を突破するなど上々の滑り出しとなった。
■音声電話の時代は終わった
開業イベントの会場となった都内の家電量販店では、かなりのスペースがイー・モバイルの販売エリアになっていた。その広さはソフトバンクモバイルに匹敵するほどだ。
そんな好調さも背景にあったのか、開業イベントの会見に登場した千本会長は当初5分間だった会見時間を大幅にオーバーし、広報担当者の制止を振り切って40分近く喋り倒すなど、まさに舌好調だった。
「すでに『もしもし、はいはい』という音声電話の時代は終わった。これからはスマートフォン、ブロードバンドケータイの時代だ。まさに今年はターニングポイントになる。私の予言は絶対に当たる」
2月にスペインで開催された携帯電話の国際イベント「3GSM」でも「メーンテーマはスマートやブラックベリーだった」と語り、時代の流れはもはや音声電話ではなくPCの世界に移行していると断言していた。
■「世界で最も進んだスマートフォン」
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「EM・ONE」を発表し、掲げる千本会長(中央)ら=2月19日
千本会長にとって、第1弾となる端末「EM・ONE」は自身のこだわりが満載された自信作のようだ。
マイクロソフトのビル・ゲイツ会長を口説き落として、トップダウンでWindows MobileのVGA液晶対応などを改良させ、アメリカ・サンディエゴに飛び、クアルコムのポール・ジェイコブスCEOに直談判して、世界初となる 1.7GHz帯に対応したW-CDMAチップを開発させた。
シャープのザウルス部隊に「世界で最初のスマートフォンを作ろう」と盛り上げ、「IBM・ThinkPad」のデザインセンターの人間にデザインのアドバイスをもらったという。自身が東奔西走して端末を開発しただけあって、思い入れは人一倍だ。
千本会長は「エリクソンからは『EM・ONEは世界で最も進んだスマートフォンだ』という言葉をもらった」と自慢げに語った。
もうひとつ、千本会長が自慢していたのがネットワーク品質だ。サービス開始前、「イー・モバイルはネットワークが不安」という指摘があったが、それに千本会長は真っ向から反論し、他社のエリアと比較して遜色がないことをアピールした。
「半年前、5階から40階に引っ越したが、ケータイがつながらなくなった。ドコモはまったくつながらない。ソフトバンクもダメ。auは窓際で何とか入るが、部屋の奥に行くとダメ。ドコモに文句を言ったら、『室内アンテナを買ってくれ』だと。いったい何万円かかるというのだ。どこかの社長は、イー・モバイルはカバー率が悪いと指摘していた。それはおたくのほうだと言い返したいくらい」
その40階でもイー・モバイルは「アンテナが3本立つ」(千本会長)という。しかも、ダウンロードの速度計測を行うと、毎秒2メガビット程度の数字が出たとのことだ。
千本会長は、「その数値を見て、すぐに自宅の光回線を解約した」という。書斎やリビングだけでなく、台所や寝室など家のどこでも数メガクラスの通信速度が出るのなら、もはや光回線は不要と言いたいわけだ(ちなみに、千本氏はADSLのイー・アクセス会長も務めるが、40階の自宅はADSL回線が敷設できないため、仕方なく光回線にしていたという)。
■アキレス腱は屋内
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家電量販店の店頭に並ぶイー・モバイルの端末
通信速度やカバー率だけでなく、エリア展開にも絶大な自信をみせた。
「我々が約束している東京都23区内なら、他社に匹敵するレベルにある。すでに横浜や千葉の一部もカバーし始めた。6月には国道16号線をカバーできると思う。カバー率はアンテナをいっぱい建てればいいってもんじゃない。うちが使っている1.7GHz帯はよく飛ぶので、基地局数が少なくてもカバー率がいい。これは経営的に見ても効率がとてもいい」 確かに、イー・モバイルのエリアは、ネットでの反響を見ても予想以上に好評だ。実際、筆者もEM・ONEを購入しあちこちで使ってみたが、行動範囲内の屋外ならばほとんどの場所で利用でき、正直言って驚いている。試験サービスなどを行わず、いきなり商用サービスでここまで準備できたのは立派だと言えるだろう。
ただし、イー・モバイルにとって課題となっているのは、地下やトンネルなどの屋内でのエリア展開だ。ここを攻めるにはイー・モバイルだけの努力では無理な話。彼らには交渉しなくてはならない相手が存在する。
千本会長は「屋内に関しては、『トンネル協会』のせいでなかなか準備が進まない」とぼやく。
「トンネル協会」とは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルによる組織で、地下鉄のホームやトンネルなど基地局設置が難しい場所において、3社が個別に交渉すると手間がかかるため、一括して交渉するために設立された団体だ(正式名称は社団法人移動通信基盤整備協会、その前身は社団法人道路トンネル情報通信基盤整備協会)。
イー・モバイルが地下鉄など屋内に基地局を設置するには『トンネル協会』にお伺いを立てなければならない。しかし、「既存3社が牛耳っているような組織では、新規参入会社をまともに相手にしてくれず、対応を遅らせるばかり」と注文をつける。事実なら公正な競争という観点で問題だが、ユーザーが我慢してくれるかどうかは別の話だ。
■2008年の音声通話開始へハードル
「音声通話の時代は終わった」と宣言するイー・モバイルだが、2008年には音声通話サービスを開始する予定だ。
関東、東海、関西地域では自前網で展開するが、その他の地域はNTTドコモのFOMA網をローミングで利用する計画で、現在NTTドコモと交渉を行っている。だが、ここでも壁がある。
千本会長によれば、「自前網内では定額制、ローミングエリアでもできるだけ安い料金にしたいが、NTTドコモ側はローミング時にユーザーに対してタリフ(料金表)どおりで課金したいといっている」という。
要するに、NTTドコモは、イー・モバイルのユーザーがローミングで利用している時も、接続時間に応じた課金を求めているということだ。それでは、イー・モバイルとしても、ユーザーに対し安価な料金プランを組むことができない。イー・モバイル側は、使用料金をコストベースの計算にして大きく割り引いてもらうなどの施策を求めていくようだが、交渉がどのように進展するかは予断を許さない。
■「このままでは日本のケータイは衰亡」
千本会長は、DDI(現KDDI)やDDIポケット(現ウィルコム)、イー・アクセスといったように、数々の通信会社を立ち上げてきた。60歳を越えたいまになって、4番目の携帯電話会社として果敢に参入するのは、旺盛な事業欲もさることながら、今の通信業界の衰退を憂い、「日本のIT産業を5年で復活させる」という志があるからだという。
「60歳を越えて、3600億円のリスクをとって、なぜ私がケータイ業界に参入するのか。うちのかみさんからは『食べることに苦労しないでしょ』と、止められたこともある。しかし、NTT民営化のときに飛び出してDDIを作って以来、通信の歴史の証人として最近の衰退は目を覆うばかり。このままでは、日本のケータイは必ず衰亡していく。ノキア、サムスン、モトローラにはほとんど勝てない。メーカーは既存3社の枠組みに甘えて、世界シェアはほとんどない。日本のマーケットは、世界に比べたら数十分の一程度に過ぎない。こんな小さなところで、一番になってもダメなんだ」
■好敵手・孫社長には「本当に残念」
好きライバルの千本会長と孫社長
NTTドコモからウィルコムまで、携帯通信業界すべてを「敵」に回し、言いたい放題だった千本会長だが、ソフトバンクモバイルの孫正義社長に対しては、「とても残念だった」と悔しがった。
「1.7GHz帯での新規参入事業者として、ADSLのころのように孫さんと一緒に既存3社と戦おうとしたら、あっという間に向こう側に変わってしまった。孫さんは頼もしい競争相手だったので、既存会社に回ってしまったのは本当に残念。新規参入の孫さんにエールを送りたかったんだけど」
ソフトバンクモバイルの孫社長は、1兆数千億円をつぎ込んで「時間」を買った。それは間違っていないし、月額980円のホワイトプラン、PANTONEの20色ケータイなど斬新な試みを次々と行っている。
しかし、その一方で、新規参入事業者としてイー・モバイルと肩を組んで、既存3社に攻め入るという光景も見たかった気がする。
いま、イー・モバイルは徹底的に「攻め」の姿勢だ。一方のソフトバンクモバイルは攻めの姿勢ではあるものの、同時に1500万契約を減らしたくないという守りの体制もとっている。
トンネル協会やローミング問題なども、イー・モバイルとソフトバンクモバイルがタッグを組んでいたら、すぐに解決できた問題なのかも知れない。千本会長が残念がるのも充分に理解できる。
■「5年後には日本のケータイを真っ赤に塗り変える」
イー・モバイルがめざすのはモバイルブロードバンドという市場だ。千本会長は日本のケータイ産業で成功することでまったく新しい市場を作っていきたいと語る。
「いまのケータイ業界は、世界的に見てもかなり遅れている。ケータイのスピード、料金はとても貧相。着うたやおサイフケータイなどはマイナーなサービスでしかない。既存のキャリアだけではダメ。僕らのような世界に例のないキャリアが革命していくことで日本のケータイ産業を再生させたい」
会見の最後、「僕の予言はかならず当たる。5年後、日本のケータイを真っ赤に塗り変えてみせる」と語った言葉は、本当に実現するか。小粒な存在ながら既存キャリアを脅かす台風の目として、日本のケータイ業界をどう揺さぶっていくかに注目していきたい。
[2007年4月5日]
- 筆者紹介-
石川 温(いしかわ つつむ)
略歴
日経ホーム出版社に入社し、月刊誌『日経Trendy』編集記者に。ケータイ業界を中心にヒット商品、クルマ、ホテルなどを担当。2003年にジャーナリストとして独立した後、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広くケータイに関する記事を執筆。テレビなどにも多数出演。近著に、各キャリアの番号ポータビリティ戦略と、コンテンツ事情を取材した『Web2.0時代のケータイ戦争-番号ポータビリティで激変する業界地図』(角川書店)がある。
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