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第4の携帯電話会社、イー・モバイルの強みと弱み

(石川 温=ケータイジャーナリスト)

 3月31日、NTTドコモ、au、ソフトバンクに続く、第4の携帯電話会社として「イー・モバイル」が誕生する。実に13年ぶりとなる携帯電話会社の新規参入だ。

 ケータイ業界はNTTドコモやau、ソフトバンクといった強敵がひしめき合っている。しかも、携帯電話・PHSの契約数は1億件を突破し、国内市場は「飽和状態」と言われている。そんななか、ケータイ業界に参入するイー・モバイルは「いかに新たな市場をつくっていくか」が、生き残っていくための課題となる。

データ通信の完全定額制を導入

 イー・モバイルは「ケータイの新ケータイ」をキャッチコピーに、これまでにはない料金プランやサービスで、既存の携帯電話会社との差別化を図っていく。

 まず料金プランに、月額5980円のデータ通信完全定額制を導入。モバイル端末だけでなく、パソコンを使ったデータ通信でも月額5980円だ。

 これまで、ケータイ各社はPDA向けには完全定額制を導入していたが、パソコンに関しては未対応。唯一、ウィルコムだけがパソコン向けでの定額制を実現している。イー・モバイルはウィルコムの独壇場に割って入ることになる。

端末は、電話機の進化ではなく、パソコンの小型化

 端末戦略では、供給メーカーとして国内トップのシャープと手を組み、WindowsMobile端末「EM・ONE」を開発した。

 すでに市場にはウィルコムのW-ZERO3が定番商品として存在するが、PHSであるため、最高 204kbpsという通信速度の遅さが欠点となっている。これに対してEM・ONEは、HSDPA網を使う。スペック値で最大3.6Mbpsの高速通信を実現。外出先でも、インターネットサイトの閲覧や、メールチェックが快適にこなせるようになる。

 また無線LANにも対応するので、圏外でも通信できる。さらにテレビの移動体向け地上デジタル放送「ワンセグ」も見られるのだ。

 さらに4.1インチの大型液晶ディスプレイを搭載。本体をスライドさせればキーボードが出てくる。外出先でも、メールの文書作成や、Excelの修正などが可能だ。もはや「ノートパソコンいらず」とも言える、ハイスペックなモバイル端末に仕上がっている。

 最近、OSにWindowsMobileを採用したスマートフォンが話題だ。ウィルコムの「W- ZERO3」を筆頭に、NTTドコモ「hTc Z」やソフトバンク「X01HT」が続く。しかし、いずれも「電話機」であるため、携帯性には優れているものの、画面サイズは小さい。サイト閲覧や文書作成には、やや物足りない大きさにとどまっている。本格的な仕事をするには不向きだ。

 EM・ONEの製品開発担当者は「われわれの親会社であるイー・アクセスは、ADSLというブロードバンドの会社。イー・モバイルは、モバイル環境でブロードバンドを提供するのが使命。EM・ONEは、モバイルブロードバンド環境を生かすための端末として開発した」と話す。

 イー・モバイルは、開業当初、音声通話のサービスは提供しない(サービス開始は2008年春を予定)。そのため端末も、音声通話をまったく意識せず、徹底的にデータ通信に特化したサイズや使用感にすることができたようだ。

 既存の携帯電話会社が「電話機」を進化させて、インターネット機能を加えていくのに対し、イー・モバイルは、パソコンをいかに小さくして持ち運ぶかという発想からスタートする。ADSLを起源にしている会社だと、端末の考え方ひとつにとっても、これまでの携帯電話会社と大きな違いが出てくる。

販売奨励金を見直し、使用予定年数に応じて価格を変動させる

 イー・モバイルは新規参入事業者だけに、「端末の売り方」にも、新しい試みをいくつか取り入れている。

 まず、端末購入時にあらかじめ契約年数を決めることで、購入価格が変わる仕組みを導入した。EM・ ONEを購入する際、「2年契約」を結ぶと、端末価格が3万9800円になる。しかし、「いつ解約するか分からないから」と「1年契約」を選ぶと端末価格は7万1000円、さらに契約期間を決めない場合は9万5000円になってしまう。

 いま、総務省が中心となって、携帯電話の販売奨励金の是非を問う研究会が開かれている。日本では、端末を1円やゼロ円で購入できる代わりに、月額基本料金が高く設定されている。短期間に解約を行うユーザーは、端末を購入するたびに販売奨励金の恩恵を受ける。しかし、同じ電話機を数年間、使い続けているユーザーは、販売奨励金の恩恵を受けることなく、高い基本料金を払い続けていることになる。この不公平感を解消するために、販売奨励金の廃止が検討されている。

 イー・モバイルが導入した販売方法は、この不公平感を解消することができる。なぜなら、短期間で解約する人は、それなりに高い端末価格を支払わなくてはならないからだ。

 これまでも他社がこうした仕組みの導入を検討してきたが、公正取引委員会の指摘もあり、導入が見送られてきた。しかし、販売奨励金制度の見直しもあって、各社とも今年中には、この販売方法を導入すると見られている。イー・モバイルは他社に先駆けて、この期間拘束の販売システムを導入したわけだ。

イー・アクセスの株主には割り引き販売

 さらに、イー・モバイルは、親会社のイー・アクセスADSL事業を手がけていることもあり、EM・ ONEとADSL回線のセット販売も行っている。キャンペーン期間中にEM・ONEとADSLを同時に契約すれば、ADSL料金の1500円が無料になるという。イー・モバイルは「家ではADSL、外出先ではEM・ONEといった使い方」を提案する。

 auなども、固定回線と携帯電話をまとめることで安くなるサービスを手がけているが、「ADSL回線無料」をうたうのはイー・モバイルくらいだ。

 また、親会社がベンチャー企業だけあって、株主優待として端末を販売するのも面白い試みだ。イー・アクセスの株主なら、2年契約で3万9800円のEM・ONEを2万円引きの1万9800円で購入できる。データ通信カードも、2万円引きの8980円で購入できる仕組みを用意した(昨年12月末、あるいは今月末に株式を所有していなくてはならない)。

 かつてNTTドコモが、株主総会で「優待で端末を販売しないのか」という質問を受けたことがあった。このときは「海外にも株主がいるために無理」という回答をしていた。イー・アクセスは、NTTドコモがためらっていたことを、あっさりと始めてしまった。

 また、他社のデータカードユーザーに対し、イー・モバイルと契約する際の初期費用(4980円)を1円にするという大胆な攻めの販売キャンペーンも展開する。

 データ通信サービスで市場をリードしていたウィルコムは、通信料金、端末、販売戦略のすべての面で、イー・モバイルの動きを脅威に感じることだろう。

エリアの拡大を早急に進める必要がある

 しかし、イー・モバイルは新規参入であるがゆえの数々の弱点が存在する。

 まずは通信可能なエリアだ。3月31日のサービス開始時は、関東地区は東京都23区内、東海地区は名古屋市、関西は大阪府大阪市と京都府京都市などが中心となっている。6月末までに、関東地区は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の国道16号線圏内、関西地区は兵庫県の神戸市および大阪府の大阪市近郊都市の一部がエリアとなる計画。その後も、順次拡大していく予定だ。

 ただ、面としてのカバーが進んでも、地下街や地下鉄の駅に入れば圏外となってしまう。

 EM・ONEは、忙しいビジネスパーソンに重宝されるような端末だ。しかし、地下鉄を待っているホームで使えないとなれば、やや不便と感じてしまうだろう(ただし、無線LANが使えるので、まったく使えないというわけではないが)。

 かつて、PHSやケータイのサービスは開始当初にみなエリア展開で苦労した。DDIセルラーとIDOのcdmaOne、NTTドコモのFOMA、ボーダフォンの3G… ほとんどの場合、ユーザー加入の伸びが止まった。

 イー・モバイルの場合は、音声通話を行わないため、常に電波がつながる場所にいる必要はない。ネットにつなぎたいときには、電波の届きそうな場所に移動すればいい。とはいえ、携帯電話会社にとってエリアは重要な要素であるだけに、早急に充実させる必要があるだろう。

 2008年春から始まる音声通話サービスは、NTTドコモのFOMA網をローミングできるため、エリアの不安はほとんどない。しかし、この1年間、EM・ONEを使おうとするユーザーは、エリアのことを考えながら使わなくてはならない。

WindowsMobile端末市場の伸びは緩やか

 もうひとつ、不安視しなくてはならないのが、WindowsMobileの市場規模だ。

 最近になって、各社から相次いで対応端末が発売されたものの、販売台数は多くはない。ヒット商品と呼ばれるW-ZERO3でもシリーズで数十万台程度。HTC製でも数万台しか売れていないと見られる。ユーザーは増えつつあるが、一般の携帯電話と比べると市場規模ははるかに小さい。

 データ通信カードも、市場の伸びはあまり期待できない。「昨今の個人情報漏えい問題もあって、企業はノートパソコンを社員に持たせなくなっている」(ウィルコム・喜久川政樹社長)と言う。

 イー・モバイルは、「2007年度で30万契約を狙う」(種野晴夫社長)と言う。だが、いまのWindowsMobileやデータ通信カードの市場規模を考えると、かなり強気の数字と言えそうだ。

しがらみにとらわれない「新規参入」が強み

 とはいえ、イー・モバイルには期待すべき点も数多くある。その1つがまったくの「新規参入事業者」であるという点だ。

 NTTドコモやau、ソフトバンクは、今では過去のものになってしまった第2世代のサービスを継続しながら、技術競争を行い、HSDPAやCDMA 1x REV.Aといった高速通信サービスを広めていかなければならない。料金面においても、過去に提供したものを引きづりながら、いまの時代にあった料金体系を開発しているという状況だ。

 イー・モバイルは「過去」に縛られることなく、新しいサービスを次々と始めることができる可能性がある。

 また、サービス開始当初は「音声通話」を手がけないことも、実は「武器」である。既存の携帯電話各社は、データ通信サービスの完全定額化に踏み切ると、ネットワークに負荷がかかり、音声通話サービスに悪影響を及ぼす危険性がある。

 イー・モバイルが月額5980円の完全定額制を導入できたのは、所有するネットワークをすべてデータ通信に割り当てることができたからだ。高速で定額のネットワークを生かしたサービスを提供できれば、既存の携帯電話会社からユーザーを奪い取ることは十分に可能だろう。

 開業5年で400万以上の契約者数を見込むイー・モバイル。完全定額のデータ通信サービスを武器に、既存の携帯電話各社にはできないサービスを生み出していくかことができるかどうかが、これからの勝負となりそうだ。

石川 温(いしかわ・つつむ)

ケータイジャーナリスト。日経ホーム出版社に入社し、月刊誌『日経Trendy』編集記者に。ケータイ業界を中心にヒット商品、クルマ、ホテルなどを担当。2003年にジャーナリストとして独立した後、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広くケータイに関する記事を執筆。テレビなどにも多数出演。近著に、各キャリアの番号ポータビリティ戦略と、コンテンツ事情を取材した『Web2.0時代のケータイ戦争-番号ポータビリティで激変する業界地図』(角川書店)がある。

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